鬼滅の刃で脚光を浴びる竈門神社
太宰府天満宮の裏手にそびえる宝満山。その山麓に竈門神社(下宮)があります。その竈門神社が人気漫画の『鬼滅の刃』の聖地として昨年くらいから脚光を浴びています。Huluで視聴できたので今年の初めくらいに一気に観ました。ぐいぐいと物語の引き込まれていきました。公式アナウンスはないにもかかわらず、竈門神社がなぜ鬼滅の刃の聖地と見なされているのかは既にネットにたくさんの情報があがっているのでそちらに譲るとして、今回は『鬼』と『玉依姫』にスポットを当ててみたいと思います。
鬼とはなにか
辞書で調べると『仏教、陰陽道 (おんようどう) に基づく想像上の怪物。人間の形をして、頭には角を生やし、口は横に裂けて鋭い牙 (きば) をもち、裸で腰にトラの皮のふんどしを締める。性質は荒く、手に金棒を握る。地獄には赤鬼・青鬼が住むという』とあります。一般的に私たちが連想するような恐ろしい形相の化け物です。しかし、ちょっと視点を変えると面白い話も出てきます。
たとえば、吉備地方の温羅(うら)も鬼とされています。この温羅は製鉄技術を持った鬼(金棒を持っている)のことです。この温羅が吉備一帯の支配していたところ、苛烈な治世に領民が困り果て大和朝廷にその窮状を直訴したそうです。これに応じて、大和朝廷から討伐軍が差し向けられ温羅は平らげられたという伝承が残っています。
福岡県久留米市大善寺玉垂宮の鬼夜(おによ)というお祭りにも鬼が出てきます。ごくごくシンプルにいうと、表のシナリオとしては「桃梅沈淪(うすらりんちん)が反抗した。そこで藤大臣が軍勢を差し向けてその者を捕らえて首を刎ねた」というものです。しかし、進行していく祭礼そのものはそんなシナリオではなく、どうも地元の民たちが鬼を守って落ち延びさせるような筋書きがあるようです。また、太宰府天満宮の『鬼すべ』にも鬼が出てきます。ここでは鬼を討伐して鬼が降参してめでたしめでたしという流れです。このような歴史の隙間から垣間見えるふとした『匂い』は大変にロマンを掻き立てられます。
鬼といえば、想像上の化け物という視点は当然にありますが、裏側から覗いてみれば、先住民や被征服民の影がちらちらと見える場合もあるわけです。この辺りが歴史の面白さでもあります。
竈門神社の主祭神は玉依姫
玉依姫は鵜葺草葺不合命(うがやふきあえず)との間に子供をもうけられ、そのひとりが神武天皇です。つまり、初代神武天皇の生母となります。しかし、同時に鵜葺草葺不合命を養育した養母でもあります。
どういうことかと言いますと、山幸彦として知られる火遠理命(ほおりのみこと)は海神の娘の豊玉姫と結婚して豊玉姫は懐妊しました。しかし、天津御子の子を海中で生むわけにはいかないということで、先に陸に戻した火遠理命に「海辺に鵜の羽を萱にして産室を作っておいて欲しい」と頼みます。
そのあと、約束通りに火遠理命のところにやってきた豊玉姫は「赤子を生み落とすまでは決して中は見ないで欲しい」と頼み産室に入りました。しかし、お約束通りに、火遠理命は産室を覗いてしまいます。そこには鰐(あるいは龍)が這いずり回っていたので、恐ろしさを感じて火遠理命は逃げ出してしまいました。
元の姿に戻って出産をしていたところを見られた豊玉姫は恥じて再び海の中へと帰っていきました。しかし、それでは赤子の養育が出来ません。そこで、妹である玉依姫を火遠理命にところに差し遣わして鵜葺草葺不合命を養育させました。まさに、玉依姫は海の神様の眷属でもあるわけですね。海の神様の眷属が山の中に祀られているのも興味深い話です。
竈門神社へは太宰府駅前からコミュニティバス「まほろば号」が運行しています。所要時間は約10分、料金は100円となっています。健脚の方は徒歩で40分といったところです。春は桜の名所、秋は紅葉の名所でもあります。お参りの後は、ぜひ太宰府天満宮参道にもおいでいただき、梅園菓子処も覗いていただくと幸いです。